学校法人旭川中央学園 旭川ふたば幼稚園

子どもの遊び環境のプロ・井上先生が語る、子どもの主体性を育む大人の関わり方【お仕事インタビュー】

ふたば幼稚園の最大のこだわりは、子どもが夢中になる遊び環境をしつらえた「園庭」と「室内」です。

こどもたちの自主性と好奇心を育めるように、プロ設計士がデザインとアドバイスを行い、幼稚園のスタッフがすべて手づくりで完成させています。

園庭のコンセプトは「子ども達が主体的に遊べる環境」

裸足で走り回れる「砂」に総入れ替えしたり、自然がより身近に感じられるように30本もの「花木」を植栽したり、子どもの反応を観察して何度も遊具をつくり直したりなど……2016年から園庭づくりにこだわってきたふたば幼稚園は、旭川市内でも数少ない園庭にこだわった幼稚園です。

そんなふたば幼稚園の遊び環境を支えているのは、若い頃からこどもの遊び環境を研究してきた設計士の井上寿(いのうえ ひさし)先生です。井上先生は、こどもがイキイキと遊びに集中できる遊び場のプロフェッショナルです。

ここでは、ふたば幼稚園の遊び環境の魅力をもっと知っていただくために、井上先生のお仕事に迫ります。

一級建築士・井上先生のプロフィール

一級建築士・井上先生のプロフィール

井上 寿

株式会社 Integral Desigh studio 代表取締役

井上先生こと株式会社 Integral Desigh studio (2015年設立)代表取締役 井上 寿は、一級建築士・こども環境アドバイザーの資格を持ち、北は北海道、南は沖縄まで全国の幼稚園・保育園・こども園の設計に携わっています。

大学入学以来、師匠である仙田満教授に師事し、大学時代から20歳の頃から子どもの遊び環境をテーマに研究されていました。30以上のこども園、公園、遊具、産婦人科、小児科など子どもにまつわる施設を多く設計されています。

 

愛和病院 新館 井上先生が環境デザイン研究所 時代に設計  医療福祉建築賞 受賞

さくらい保育園 井上先生が環境デザイン研究所 時代に設計 神奈川県建築コンクール 優秀賞 受賞

札幌ゆたか幼稚園 株式会社 Integral Desigh studio

教えて!井上先生~仕事の流儀~

私が仕事で目指しているのは「子どもが自ら育つ環境づくり」です。

環境づくりは、関わる人の“認識”も大事な要素。

いくら子どもが挑戦できる環境をつくったとしても、大人が「できないだろう」と勝手に判断してしまうのは非常にもったいないこと。

子どもは大人が思っている以上にずっと難しいことができる能力をもっており、挑戦のタイミングは子ども達自身が一番よく知っているのです。

だからこそ私は、園庭の設計のみならずスタッフや保護者の方への理解を深める活動もしています。

園庭づくりは、いかに、必死に子ども達が「育とう」としているか大人が理解することからスタートだと思っています。

大人の方もぜひ遊具であそぶ体験をしてみて欲しいですね。子どもの能力がいかにすごいかきっとわかるはずです。

大人ができなくても子ども達はスイスイ登ってしまう。これが子ども本来の力です。

教えて!井上先生~仕事の流儀~
教えて!井上先生~仕事の流儀~
教えて!井上先生~仕事の流儀~
遊具に挑戦する子どもたち

教えて!井上先生~こどもが真剣に遊びこめる園庭はどうやってつくるの?~

井上先生がふたば幼稚園とどのように関わり、こどもが遊びに真剣になれる園庭をつくるのか、ご本人に答えていただきました。

年に数回訪問して遊具を点検・リニューアルしています。

私は年に2、3回、ふたば幼稚園に赴き、だいたい2日間で設計・遊具の確認や点検・スタッフ研修・保護者への説明を行います。

午前中にスタッフから「どこに遊具をつくりたいのか」「どんな行動をひきだしたいのか」など話を進め、その話をもとに設計図を1時間程度でつくります。

年に数回訪問して遊具を点検・リニューアルしています。

井上先生が描いた設計図をスタッフに共有しています。

午後から遊具づくりがはじまり、設計図をもとにスタッフ達が木を切ったり、くぎを打ったりして、その日のうちに遊具は、ほぼ完成します。

スタッフが園庭をつくっている様子
スタッフが園庭をつくっている様子

スタッフが室内遊具をつくっている様子
スタッフが室内遊具をつくっている様子

園庭づくりの前に「スタッフの研修」からスタートします。

わたしの仕事は、いきなり園庭を改修するのではなくて、まずはスタッフの研修からスタートします。

その理由は、人との関わりも含めての環境づくりだからです。

いくら子どもにとってよい園庭をつくったとしても、関わるスタッフの言動ひとつで子どもの成長を阻害することもあります。

例えば、遊具が危なそうにみえるからといって、「あぶないから離れて」「ケガするからやめておこうか」というような声かけをしてしまうと、子どもの挑戦心を阻んでしまいますし、自尊心が育ちにくくなります。

子どもたちに怪我をさせたくないという気持ちはわかりますが、過干渉はかえって子どもの主体的な判断を阻んでしまうのです。

だからまずは、園のスタッフが、子どもを信頼し、見守ることができるように、「大人の免疫をつくる」研修から始めることにしています。

保護者の協力も環境づくりには大切な要素

最高の遊び環境は、スタッフのみならず保護者の理解も不可欠です。

ふたば幼稚園の園庭づくりは保護者の方にも手伝ってもらうこともありますし、保護者の理解と協力を得るため「大人ようちえん」という活動にも力をいれています。

「大人ようちえん」では、子どもが遊びを通してなにを学ぶのかを知ってもらい、実際に保護者の方に遊具で遊んでもらって、一般的な遊具との違いを体験してもらいます。その中で、井上先生にも年に数回ほどお話いただいています。

井上先生がどんなお話をするのか少しだけご紹介します。

たとえば「すべり台」。

公園にある既成遊具は、実は大人が2~3人ついてようやく子どもが安全に遊べる設計になっています。ですから、一般的なすべり台って実は子どもの事故が多いのです。

一般的なすべり台のイメージ
一般的なすべり台のイメージ

一方で、ふたば幼稚園では、山の中にすべり台を設計しています。落ちても大きな怪我につながらないよう砂をひいてます。

山に登らないと滑れない設計になっているので、ある程度の年齢がないとすべり台ができない工夫になっています。

それを大人が見守るのではなく、自然に見守られるように設計しているので、自分で考えて遊べる設計になっているのです。

遊具の設計例① 子どもが夢中になれるよう何度も改修します

ここからは、実際に設計に携わった園庭を紹介しましょう。

ふたば幼稚園の設計を行った最初期は、「子どもが挑戦する環境をもっと作りたい」というテーマだったので、一本橋やボルタリング、ロープ渡りなどで「はっぱくんハウス」へアプローチするチャレンジングな遊具を中心に設計していました。

遊具の設計例① 子どもが夢中になれるよう何度も改修します
3階だてになっている、はっぱくんハウス。ボルタリングやロープもあります。

遊具の設計例① 子どもが夢中になれるよう何度も改修します
はっぱくんハウスへ繋がる丸太。

現在は、挑戦的な要素に加えて「子どもの居場所づくり」をメインに進めており、はっぱくんハウスの中にハンモックを作ったり、黒板やイーゼルを設置したり、多様な活動が展開できるよう改修しました。

はっぱくんハウス1階のハンモック

さらに、周囲にデッキやベンチを作って設置したり、屋内にあるロフトはいくつもの仕切りを設計し、さまざま遊びが展開でき子どもの居場所をつくれる空間があります。

室内のロフトお部屋ごとで様々な遊びができます

ロフトの空間:塗り絵など手作業を楽しめます

ロフト空間:おままごとも楽しめます

これまでに作った遊具はすべてDIYです。子どもたちの様子に合わせて設計し、何回でも改修できるので、年々園庭や室内が改善されていく様子を楽しめます。

遊具の設計例②子どもが夢中になる「砂場」

砂場のまわりに水をつかった様々な遊びができるよう、子どもの砂場あそびが発展するようあえて段差をつけました。

現在の砂場
現在の砂場

現在の砂場で遊ぶ子ども達
現在の砂場で遊ぶ子ども達

本来砂場って平らなところに掘ってつくられていますよね。歴史をたどると、この原理は小学校の校庭からきており、走り幅跳びで着地しやすいよう平らな設計になっていたりするんです。その名残があちこちの砂場でみられます。

こういった、小さな工夫一つで子ども達の遊び方の自由度が高まります。そうして徐々に園庭を改修していくようになり、本格的に園庭改修が進んだのが、2016年。

この山をつくるために、10tダンプ10台、クレーンやショベルカーなどの本格的に重機をうごかし改修が進みました。園庭の環境がみるみる変わっていったのが、ちょうどこの時期でした。

教えて!井上先生~ふたば幼稚園ってどんなところ?~

ふたば幼稚園が井上先生との縁ができたのも、先生が独立したばかりの2015年でした。

「野育の会」で子どものあそび環境に関心を強めていた園長の山中先生が、幼児教育の勉強会を通じて連絡をとるようになったのがきっかけです。

ここでさいごに、全国の園をみてきた井上先生に、ふたば幼稚園はどんな園なのか、お話していただきました。

ふたば幼稚園は、こどもが真剣に遊べる環境づくりへの熱意がすごい。

ズバリ、ふたば幼稚園を一言であらわすと、「機動力がある園」。

まずはなにより、園長の山中先生が環境にかける想いや価値を理解しているので、判断がとても早いです。

そしてそんな熱量のある山中先生に続くように、スタッフの協調性・意欲も高く、みずから他の園へ行き環境を学んでくれています。

ふたば幼稚園の方々は、「子どもが自ら育つ環境づくり」を実現するために、みんな同じ方向を向いている。だからこそ機動力が発揮されているのだと思います。

スタッフみずから「子ども目線」に立ち、大人の常識を打ち破ってくれます。

今では、スピード感・意欲も高いふたば幼稚園ですが、関わりはじめた当時は違いました。

やっぱりよくある現場での課題が、園庭の改造に対するスタッフの不安です。

ふたば幼稚園と関わった当初は、広場を取り囲むように既成の遊具がある、よくある運動場という感じでした。

環境整備を始めた当初は、ふたば幼稚園は、運動会もサッカーもしたいから真ん中の広いスペースを残したいという意見もありました。

一方で園長としては、“園庭を森のように”したかった。そこでどうしても職員の不安が声としてでてきます。園長の意向だけでできないのが保育であり環境整備ですから難しい部分でもありますよね。

スタッフへの研修を重ねていくうちに、年1回ある運動会のための園庭よりも、毎日子ども達が遊ぶ環境の方が大切だという価値観が徐々に共有されていきました。

今では、運動会がこの園庭で行われているというのだから驚きです。常に子ども目線で常識を覆してくれるのがふたば幼稚園かもしれませんね。

ふたば幼稚園の園庭で行う運動会の様子

ふたば幼稚園の園庭で行う運動会の様子

まとめ

今回は、子どもが集中して遊びこめる園庭・室内の環境を設計してくれている、井上先生のインタビューをご紹介いたしました。

誰よりも「子どもにとって最高の遊び環境は何か?」を考え続ける井上先生の情熱に、ふたば幼稚園のスタッフ一同、大きな刺激と励みをもらっています。

「こどもが主体となり、環境・遊びを通して心を育む保育」を目指すふたば幼稚園は、スタッフ・保護者・地域みんなで子どもたちのやりたい!をサポートをします。

まずは詳しく話を聞いてみたい、入園・園開放体験にご興味があるという方は、ぜひお気軽にご連絡ください。

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参考
子どもが自ら育つ園庭整備 著:木村歩美 井上寿

 

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